石油開発の最前線から

石油を中心としたエネルギー・資源開発について考える

原油安がもたらすWin-Winな関係

f:id:oil-man:20170221024028p:plain

なおも原油価格は1バレル50ドル台で推移する模様

最近原油価格は一時期の低迷期を脱して落ち着きつつある。2014年10月まではWTI価格にして1バレル80ドルを記録していたが、中国の景気減速や石油の供給多過などの要因によって原油価格は暴落し、2016年前半に一時1バレル20ドル台まで落ち込んだ。石油上流企業各社はこの2年間、1バレル80から100ドルで推移した時代に投資決定した高コスト案件の採算割れに直面し、探鉱投資の抑制や開発投資の先送り、人件費の削減など涙ぐましい努力によって厳しい時代を切り抜けようとしてきた。歴史を振り返れば、アジア経済危機やリーマンショックなど、原油価格が落ち込む場面は幾つかあったものの、80ドルから20ドルへと価格が25%にまで暴落した例はなかなか類を見ない。ここにきてOPEC各国もようやく減産に乗り出し、原油価格の安定に努めようとする動きが出始めた。依然として石油供給量が過剰であることは否めず、果たしてOPECによるわずかな量の減産合意によって価格を現状維持できるのか疑問ではある。しかし、業界関係者やアナリストの意見によれば、今後中長期にわたって原油価格は現在の価格水準を維持するであろうとの予測が大多数を占めている。つまり、大方の意見として、(短期的な変動は抜きにして)もう20ドル台に突入することもなければ、80ドルまで復活することもないということだ。石油上流企業の関係者の中には、再び価格が高騰することを願っている者も少なくないが、この1バレル50ドル時代を低油価だと呼ぶのではなく、絶え間ない努力と覚悟によって適正価格だと受け入れることが、現在の企業各社には求められている。

原油高騰を喜ぶ時代はもう終わった

2008年といえばリーマンショックによって世界経済が大きく落ち込んだ年だ。それは石油業界も例外ではなく、石油需要の大幅な減少によって、WTI価格は1バレル130ドルから40ドルまで値を下げた。この時はすぐに原油価格が回復する兆しを見せたが、思えば、いつの時代も石油企業は油価の乱高下に苦しい思いをさせられてきた。原油価格が高騰すれば既存生産案件の価値が向上し、追加埋蔵量を確保しようと探鉱案件や高コストの開発案件を着手した。石油会社は決して外部に公表することはないものの、各社独自の油ガス価の将来予測を行っており、その予想価格に基づいて投資判断を行う。油ガス価予測に関しては、緩やかな上昇曲線を期待する企業もあれば、横ばいの予測を行う企業もある。ただし、下降曲線を想定する企業はおそらく一社もいないだろう(もし下降曲線予測を使うとすれば、価値が最大化されている現時点で会社を売り払うことが最善の選択肢になってしまうからだ)。その結果、原油高騰時には多くの利益が生み出され、その潤沢な資金を使って埋蔵量の補填のための油ガス田を高値で買収する。そしてその行き着く先は、原油価格暴落によってプロジェクト(ひいては会社そのもの)の価値を毀損してしまうという悪循環のシナリオだ。リーマンショックの影響によって、その悪循環が発生した2009年、サウジアラビアの元石油省のヤマニ氏が非常に興味深い発言をしたのを日経新聞が報じている。

石器時代は石がなくなったから終わったのではない。石器に変わる新しい技術が生まれたから終わったのだ。石油も同じだ。」

この発言がどのような状況で、どういった意図を持ってされたのかはわからない。しかし、この言葉はサウジアラビアという世界一の石油生産国の、かつそのトップである石油大臣から発せられた言葉である。皮肉なことに、8年経った現在もまた、多くの石油上流企業は2009年リーマンショック時と同じような苦境に立たされている。歴史を繰り返しているこの状況を見ていると、おそらくこのヤマニ氏の言葉について深く考えなければいけない日はそう遠くはないうちに来るであろうことを予感させられる。

石油上流企業は本当の意味での競争力強化を

原油価格が高騰して喜び、原油安に直面して悲しむ。この業界の人々は本当に素直な反応をする。確かに価格が高騰すれば、既存生産プロジェクトから多くの利益を生むことができる。しかし、その原油価格の乱高下によって石油産業そのものの競争力を大きく毀損してしまっていることに気づいている業界関係者はそんなに多くないように思う。中国がレアアースを禁輸したことによって日本が技術革新を起こしたことは記憶に新しい。そして、それは石油でも起こりうることだ。昨年は「米国シェール企業 vs サウジアラビア」で低油価の我慢比べをしているとの報道もあったが、石油企業にとっての本当のライバルは化石燃料のシェアを奪う非化石燃料由来のエネルギーであるべきであり、石油生産を営む同業者同士で消費者の不安を煽るような争いはするべきではない。現状、多くの石油上流企業は1バレル80ドル時代の負債(高コスト案件)を抱えており、投資した数千億円、数兆円規模のコスト回収に苦労している。今の状態で1バレル50ドルに対応しろというのも多少無理な話ではあるが、もしも今後、原油を1バレル50ドルの水準で安定的に供給し続けられるようであれば、石油はとても競争力のある商品として末長く重宝されるだろう。石油業界は、米国に端を発するシェール革命によって膨大な石油・ガス埋蔵量を積み増しすることに成功した。石油があと40年分しかないというのは、今や昔の話である。しかし、たとえシェールによって埋蔵量が増えたとしても、今まで同様に数年置きに価格の乱高下を繰り返すようであれば、いずれ近いうちに他のエネルギー分野で技術革新が起こり、石油は無用の長物となってしまうだろう。原油価格が乱高下する大きな要因としてマーケットや世界経済、投機的な理由によるところも大いにあるが、それでも石油企業各社は競争力強化のための節約と低コスト開発・低コスト操業を惜しむべきではない。低価格でも確実な利益を生めることと、安定して安く供給できることの2条件が達成されることで、初めて消費者と石油生産業者の間でのWin-Win関係を築くことができるのだと確信している。