石油開発の最前線から

石油を中心としたエネルギー・資源開発について考える

アメリカが予測するエネルギーの未来

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前回、スーパーメジャーの一つ、BPが公開した「Energy Outlook 2017 edition」を紹介した。BPのレポートは、将来の世界経済の見通しをもとに、世界全体のエネルギー需要や、石油・天然ガス原子力再生可能エネルギーなど種別ごとの需要と供給について2035年までの予測を纏めている。本レポートの詳細は過去の記事を参照してもらうとして、今回は米国エネルギー省 (U.S. Department of Energy) の下部組織の一つであるエネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration)が公表しているエネルギーレポートを紹介したい。

 

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米国が公表するエネルギー見通し

米国エネルギー情報局 (EIA) は、毎年、エネルギーの将来見通しに関して「Annual Energy Outlook」と 「International Energy Outlook」という二種類のレポートを公表している。これらのレポートは、国や国際調査機関といった公的組織が公表する将来見通しの一つとして、国際エネルギー機関(International Energy Agency)のレポートなどと並んで、最も信ぴょう性が高く、なおかつ中立的な(バイアスのかかっていない)数値が示されているだろうと考えられている。EIAが発行するレポートは、ウェブサイトから誰でも入手することが可能なので、興味がある方はサマリーレポートだけでもご一読してみてほしい。

EIA - Annual Energy Outlook 2017

International Energy Outlook 2016 - Energy Information Administration

上記で紹介したEIAの二種類のレポートについては、Annual Energy Outlookはアメリカ国内のエネルギー需要や化石燃料の供給に関する見通しについて、International Energy Outlookは世界全体のエネルギー見通しについて将来予測が纏められている。後者は、2016年版が昨年5月に公表され、2017年版も同時期に出るものと思われる。今回は、今年1月に公表されたばかりの2017 Annual Energy Outlookについて、その内容を見てみたい。

Annual Energy Outlook 2017

EIAが発行した2017 Annual Energy Outlookでは、大きく分けて以下の6項目について、2050年までの動向とケーススタディを行っている。

  1. 国内のエネルギー需要
  2. 化石燃料(石油、天然ガス)の需要と供給
  3. 発電用エネルギーの需要
  4. 輸送用エネルギーの需要
  5. オフィスや住宅用のエネルギー需要
  6. 産業用エネルギーの需要

これらの将来見通しを評価するにあたり、石油・天然ガスの価格、国内経済の成長度、および国内政策などの不確定要素に対して、考えうる幾つかのシナリオを予測している。今年のレポートで個人的に注目したのは、オバマ政権下で策定した「Clean Power Plan」の実行の是非による、発電用エネルギー需要のシナリオの変化だ。2015年当時、オバマ大統領は気候変動対策の大きな柱として、国内の既存火力発電所から排出されるCO2を32%削減することを盛り込んだClean Power Planを発表した。そして、この規制法案は石炭産業や発電業者からの猛反発を受け、連邦政府との間で法廷闘争を繰り広げていた問題法案の一つだった。ところが、現トランプ大統領率いる新政権に変わり、気候変動問題に全く興味を示さない態度を見ていると、この規制法案が葬り去られるのは間違いない。

下のグラフはレポートから抜粋したものであり、左はClean Power Planを実施した場合のシナリオ、右は実施しない場合のシナリオを示している。右の実施しないケースに沿った場合、石炭は発電用エネルギーとして2016年の水準を維持したまま推移するだろうと予測されている。このグラフから見ても、Clean Power Planは、アメリカの石炭産業にとって相当の脅威であっただろうことが窺い知れる。

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一方で、下図に示す通り、アメリカ国内のエネルギー総消費量は、2016年の水準を維持したままほぼ変わらずに推移するだろうことが予測されている。経済成長や原油価格などのいくつかの不確定要素に応じてそれぞれのシナリオが考えられるものの、総じて堅調に推移することが示されている。

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本レポートは、米国のエネルギー見通しのみを示したドメスティックなものだが、この他にも、世界のエネルギー見通しに関する最新版のレポート「2017 International Energy Outlook」が年央頃に公表されると思われる。こちらも手に入り次第、本ブログで紹介したいと思う。